「我流」、「生粋」の日本語の危険性について
製品やサービスの市場が日本国内だけでなく世界へと広がった現在、あらゆる製品・サービスのマニュアルやWebサイト、特許明細書、報告書類などを外国語に翻訳する必要性が高くなっています。
以前であれば、日本人だけを対象にした文章を書けばよかったので、会社の技術者やサービス担当者など、文章を書くために専門のトレーニングを受けていない人が、いわば「我流」の作文技術で書類を作成することが多くありました。
また、特許明細書作成者やマニュアル作成会社の社員のような文章を書くことを仕事とする人も、外国語に翻訳されることを前提として作文することなく、日本人だけのために「生粋(きっすい)」の日本語で作文すれば問題ありませんでした。
しかし、このような「我流」または「生粋」の日本語の文章は、日本語としては流ちょうで優れた文章でも、英語に翻訳するときにさまざまな問題が発生する可能性があります。
ちなみに、ここで言う「我流」・「生粋」とは、作文力が低いという意味ではありません。誤解されない句読点の使い方、「および、または」などの接続語の使い方、翻訳されることを前提にした日本語文章の書き方を学んでいないことを意味します。
「我流」・「生粋」の文章は、同じ会社の同僚や同じ専門分野の人が読む分には、何の問題もなく理解されますが、社外の人や専門分野に詳しくない人が読むときに誤解される可能性が高くなります。
以下に簡単な例を紹介します。
装置Aは前後に移動しながら回転する部品Bを制御する。
上の文で、「前後に移動」しているのは装置Aでしょうか?
それとも部品Bでしょうか?
装置Aに詳しい人であれば、どちらが移動しているかを間違えるはずがありません。
しかし、装置Aを見たことがない人がこの文を読むと、装置Aが移動しているのか、部品Bが移動しているのか判断に苦しみます。
装置Aに詳しい人が装置Aの説明書を書く場合、装置Aが移動するのか部品Bが移動するのかは分かりきっていることなので、他の人も分かるだろうと無意識のうちに考えて文章を書いてしまいます。
しかし、他の人が正しく理解してくれる保証はどこにもありません。
社内の同僚だけが読む文書であれば書いた人に聞けばいいので、それほど被害は大きくないかもしれませんが、特許明細書のような法律文書であったり、取り引き先の担当者に読んでもらう文書であったり、外国語に翻訳して海外の取り引き先に読んでもらったりする文書の場合には、ちょっとした誤解が大きな損害につながる可能性があります。
このため、誰が読んでも一つの意味にしか解釈できない文章を書く技術が重要になってきます。
そして、その技術は誰でも簡単に身に付けることができます。
特別なトレーニングは必要ありません。
誤解されやすいポイントを学ぶだけで、今日から誤解されにくい文章を書き始めることができます。
たとえば、上の文を誤解のないように書き換えるには、以下のように読点を入れます。
装置Aが移動する場合:
装置Aは前後に移動しながら、回転する部品Bを制御する。
部品Bが移動する場合:
装置Aは、前後に移動しながら回転する部品Bを制御する。
ごく当たり前のことのように見えますが、長年にわたって翻訳業務に携わってきた経験から言えば、このような簡単なルールを守れている文章に、ほとんど出会ったことがありません。
ほとんどの人が、自分だけのルールに従って文章を書いているのです。
しかも、文章を書いている本人には、分かりづらい文章を書いているという自覚はまったくありません。
しかし、このような危険な文章を書き続ける従業員を放っておくと、会社に大きなリスクが発生することは明らかです。
本サイトを読むことで、そのような危険を減らすことができるはずです。
本サイトが、今まで長年にわたって「正しい」と信じてきた文章の作成技術を見直し、誤訳されない文章を作成するための技術を身に付けていただくための助けになることを祈っています。